原田紀子さん著の「聞き書き 伝統建築の家 造る 住む 直す 職人の技」
という本の中で茅松 松木の記事が掲載されています
原田さんの本は聞き書きスタイルで、その方の口調がそのままに載っています。ぜひお手に取ってみてください
茅葺き屋根の葺き替え承ります!茨城県つくば市の女性茅葺き職人です
原田紀子さん著の「聞き書き 伝統建築の家 造る 住む 直す 職人の技」
という本の中で茅松 松木の記事が掲載されています
原田さんの本は聞き書きスタイルで、その方の口調がそのままに載っています。ぜひお手に取ってみてください
自分の現在までの思いを改めて考える貴重な機会をいただきました。今までお世話になってきた方々に感謝の気持ちを込めて、全文をここに記します。
こんにちは。ただいまご紹介にあずかりました、茨城県つくば市を拠点に、茅葺職人をしております、松木礼と申します。
今日は、若手職人の語る茅葺の未来というテーマですが、まず、女の私がどうして茅葺職人になったのか、どうして、10年以上も続けてこられたのか、
そして、未来について。お話させていただきたいと思います。
私は、高校生の頃、奈良の法隆寺の宮大工、西岡常一棟梁の本を読みました。「木に学べ」という本です。
そこには宮大工の心得として伝わった「堂塔の木組は寸法で組まず、木の癖で組め、堂塔の木組は人の癖組」という言葉がありました。堂塔とは、お寺にある建物のことです。
「職人の世界ってかっこいいな」あこがれを持って私は大工さんに弟子入りをしました。
でも、若かった私は、男に負けてたまるか、と無理をした結果、3年ほどで体調を崩し、腰を痛め、辞めさせてもらいました。
その後、次の仕事探しをしていた時、茅葺屋根の見学に行く機会がありました。
「茅葺き屋根は寸法でなく人間の感覚で葺いていくんだよ」という話を聞き、興味を持った私は、仕事の手伝いをさせてもらうことにしました。
そして、ある日、葺き替えて、仕上がった屋根を、初めて目にしました。
親方がハサミをいれた屋根の隅から軒先にかけてのラインが、屋根のフォルムが、
なんともいえない柔らかなラインで、それがたまらなくきれいで、心が震えました。
弟子にしてくださいとお願いし、茅葺き職人を志しました。
屋根の上ってスカッとしていて、景色がよくて特に今の時期なんか最高に気持ちがいいんですね。
掃除や材料運びの仕事であっても、毎日現場に行くのが、楽しみでした。
だんだん、茅を葺かせてもらえるようになると、今度は茅に触るのが好きになりました。
少し油分があって、手に吸い付く、なんとも言えない弾力のある茅を一束一束、素手でさばき、
屋根を葺いていく感覚。そして仕上げのハサミをサクサク入れる感覚、これが面白くて、気持ちがよくて、どんどん屋根ふきのとりこになっていきました。
屋根ふきが好きになってしまったんです。
これが、単純ですけど、私が茅葺職人を続けてこれた1番の理由だと思います。
そうはいっても本当に地道な仕事で、腰に負担はかかるし、顔は煤や日焼けで真っ黒になる。出張が多い、休みがない、女ですからトイレの問題など、ストレスになるようなことは、山ほどあります。
でも、辞めようと思ったことは一度もありませんでした。
仲間と一緒に感じる達成感、お施主さんが心から喜ぶ姿など、人との交流が私の支えになっていました。
そんな中、親方から独立した年にこんなことがありました。
その家は、茅葺で、30年以上トラックシートで屋根が包まれていたままのお宅でした。
自分の家の茅葺きの姿を一度も見たことのないご主人が
何とか茅葺に戻したいと
自ら近所で茅を刈り始めて10年
大変な苦労の中で集めた茅があると聞き、見せていただきました。
整然と並んだ10年分の茅を見たときに、
ああ、なんて美しいのだろう、私この茅を葺きたい、と思いました。
その時に、美しいものとは、決っして見た目の形や様式だけでは語れない、
屋根ふきのスキルだけでは作れない、
美しさには、
人間の思いがあり、
人の意思が詰まっているのだと気付きました。
茅葺き屋根は人間と同じ、
生き物だ、
とよく思います。
一棟一棟、形も材料も違う、一つとして同じものはありません。
西岡棟梁の言葉を茅葺に当てはめると
「屋根ふきは屋根の癖を見て葺け、茅の癖を見て組め、人の癖を見て組め」
と私は受け取っています。
人間の手や目、感性を目いっぱい使って屋根や材料、先人たちの声を聴き、思いを寄せ、想像力を働かせる。そして、しなやかな技能で屋根を葺いていく。
人の癖とは思考、肉体、五感、感性、など人間がもたらされている、
すべてのスキルだと私は理解しています。
生き物を扱うのだから、型にはめることはできない。人間が自分のもたらせているスキルを目いっぱい発揮して仕事をする。
そんな職人でありたい。
そして一緒に息を合わせて仕事をしてくれる仲間を作りたい。
そう思うようになりました。
しかし、現実は、茅葺屋根の棟数は減り続けています。
現代にあわなくなっているという事実・・・・
受け入れなければならない現実だと思っています。
だからこそ、未来の夢は
現代の、私たちが住みたいと思う、
新しい、茅葺屋根の姿の提案し、
私たちの、家族や仲間が心から満足し、心から一緒に住みたいと思えるような美しい街を作りたい。
これは個人でなしえる夢ではなく、
みんなの協力が必要です。
世の中が真に求めているものを、提案していかなければならないと思います。
先人たちは自分たちの生活、環境に合わせて知恵を出し合い、
家の形を進化させた結果、
風土に合った多種多様な茅葺屋根の姿を作り出してきました。
だから人間の知恵や意志が詰まっていて、その美しさは人を惹きつけるんだと思います。
屋根から学び、
それを身体で理解している、
茅葺職人は、
現代の人間の心と体が真に求めていることを、汲み取り
理解し、協力し、
新しい街を実現できる
力を持っていると
私は思っています。
まず自分自身がそうでありたい。
夢の実現に努力したい。
仲間と共に。
これからも、どうか皆さん力を貸してください。
私たちの未来のために。