台風15号被害へのボランティアレポート

台風15号災害(千葉県)被害への緊急対応依頼に関して現場レポート 松木

台風15号の被害でトタン茅葺の被害があり、応急処置をするボランティアに茅葺屋根の上り方を指導してもらいたいとの依頼が茅葺文化協会にありました。9月20日に鴨川に行ったときのレポートを今後の参考に掲載いたします。

軽トラに梯子と丸太を積み、9月20日8時に鴨川市災害ボランティアセンターに到着

ボランティア受け入れ先であるNPO法人災害救援レスキューアシストの方に挨拶し、受付、ボランティア保険の加入を済ませる。

この日屋根のブルーシート掛け作業の現場に出れるボランティアは6人、リーダーは瓦屋根屋さん、茅葺職人3人、他建築職人2人。

NPO法人レスキューアシストは要配慮者(障がい者、高齢者、外国人、妊産婦、難病者、子供)への支援を大切にしており、住民から上がってくる膨大なニーズに緊急性の高いものから対応、市の社会福祉協議会と連携し、ボランティアとのマッチングを行っていた。

まず6人で向かったのは、瓦屋根の雨漏りのお宅。高齢のお母さんの寝室の雨漏り。瓦屋根屋さんから、安全な瓦の上り方、防水テープやブルーシートを使った対策を教わる。

普段の修理と応急手当の違い、優先順位、非常に勉強になった。

また、緊急性のない、がれきの処理や納屋や物置の雨漏り修理は、今日はできないことを伝え現場を後にする。

午後からは2手に分かれ、トタン茅葺き屋根の家を回った。

2軒目は屋根正面のトタンが3分の2、下地を残して剥がれていた。

5年前にトタンは葺き替えたばかりで軒から棟まで1枚もの。

これが夜中にバリバリと持ち上がっていたという話。軒先は茅が露出していたので、下から風が入ったのだと推察

シートを張り、貫板で抑える作業。釘をもってきていなかったので、剥がれたトタンから釘を外し再利用した。

3軒目は茅を覆っていた波トタンが下地ごと、すべて飛ばされていた。一度棟にシートをかけたがまだ雨漏りがするので、大きいシートをかけてほしいとの要望。

棟から10m×10mのシートを下ろし、ロープで固定した。

60代の住人の方も一緒に屋根に上り、前日にやっと停電が解消し、これでやっとゆっくり寝られる、カッパ着て寝なくて済むと話してくれた。

今回の台風ではトタン茅葺のトタンが屋根の形のまま、飛ばされていたり、がんぶり瓦が全部落ちていたり、屋根1面が滑り落ちたりと、通常の台風では考えられない被害が茅葺建物にもあった。想像を絶する被害状況で、被災された方のご苦労は計り知れません。レスキューアシストの方の話では、9月27日現在まだ200件のブルーシート張りのニーズがあるとのこと。10月中旬まで作業は続けられるそうです。

感想

たった1日作業で、大したことは何もできなかったが、茅葺職人が普段当たり前にやっているシート掛けが、他の人には想像もつかないやり方であることがよく分かった。

私にとって千葉県は、よく仕事をさせてもらっている場所あり、お世話になった高齢の親方、連絡が取れてない友人もいたことで、今回の災害は他人事ではなかった。

敬遠していたボランティアというものの在り方も考えさせられ、運営方法も見ることができ、大変参考になった。

NPO法人レスキューアシストの皆さんの考えには深く共感し、平常時からの対策が大切であると、この経験をとおして改めて学びました。普段、少し視野を広げて自分の知識や技術、経験を深めていくことが、いざというとき人の役に立つかもしれない、貴重な経験させていただいたと思っています。ありがとうございました。

世界茅葺会議2019国際茅葺フォーラムにてスピーチをさせていただきました

自分の現在までの思いを改めて考える貴重な機会をいただきました。今までお世話になってきた方々に感謝の気持ちを込めて、全文をここに記します。

こんにちは。ただいまご紹介にあずかりました、茨城県つくば市を拠点に、茅葺職人をしております、松木礼と申します。

今日は、若手職人の語る茅葺の未来というテーマですが、まず、女の私がどうして茅葺職人になったのか、どうして、10年以上も続けてこられたのか、

そして、未来について。お話させていただきたいと思います。

私は、高校生の頃、奈良の法隆寺の宮大工、西岡常一棟梁の本を読みました。「木に学べ」という本です。

そこには宮大工の心得として伝わった「堂塔の木組は寸法で組まず、木の癖で組め、堂塔の木組は人の癖組」という言葉がありました。堂塔とは、お寺にある建物のことです。

「職人の世界ってかっこいいな」あこがれを持って私は大工さんに弟子入りをしました。

でも、若かった私は、男に負けてたまるか、と無理をした結果、3年ほどで体調を崩し、腰を痛め、辞めさせてもらいました。

その後、次の仕事探しをしていた時、茅葺屋根の見学に行く機会がありました。

「茅葺き屋根は寸法でなく人間の感覚で葺いていくんだよ」という話を聞き、興味を持った私は、仕事の手伝いをさせてもらうことにしました。

そし、ある葺き替えて、仕上がった屋根を初めて目にしました。

親方がハサミをいれた屋根の隅から軒先にかけてのラインが、屋根のフォルムが、

なんともいえない柔らかなラインで、それがたまらなくきれいで、心が震えました

弟子にしてくださいとお願いし、茅葺き職人を志しました

屋根の上ってスカッとしていて、景色がよくて特に今の時期なんか最高に気持ちがいいんですね。

掃除材料運びの仕事であっても、毎日現場に行くのが、楽しみでした。

だんだん、茅を葺かせてもらえるようになると、今度は茅に触るのが好きになりました。

少し油分があって、手に吸い付く、なんとも言えない弾力のある茅を一束一束、素手でさばき、

屋根を葺いていく感覚。そして仕上げのハサミをサクサク入れる感覚、これが面白くて、気持ちがよくて、どんどん屋根ふきのとりこになっていきました。

屋根ふきが好きになってしまったんです

これが、単純ですけど、私が茅葺職人を続けてこれた1番の理由だと思います。

そうはいっても本当に地道な仕事で、腰に負担はかかるし、顔は煤や日焼けで真っ黒になる。出張が多い、休みがない、女ですからトイレの問題など、ストレスになるようなことは、山ほどあります。

でも、辞めようと思ったことは一度もありませんでした。

仲間と一緒に感じる達成感、お施主さんが心から喜ぶ姿など、人との交流が私の支えになっていました。

そんな中、親方から独立した年にこんなことがありました。

その家は、茅葺で、30年以上トラックシートで屋根が包まれていたままのお宅でした。

自分の家の茅葺きの姿を一度も見たことのないご主人が

何とか茅葺に戻したいと

自ら近所で茅を刈り始めて10

大変な苦労の中で集めた茅があると聞き、見せていただきました。

整然と並んだ10年分の茅を見たときに、

ああ、なんて美しいのだろう、私この茅を葺きたい、と思いました。

その時に、美しいものとは、決っして見た目の形や様式だけでは語れない、

屋根ふきのスキルだけでは作れない

美しさには、

人間の思いがあり、

人の意思が詰まっているのだと気付きました。

茅葺き屋根は人間と同じ、

生き物だ、

とよく思います。

一棟一棟、形も材料も違う、一つとして同じものはありません。

西岡棟梁の言葉を茅葺に当てはめると

「屋根ふきは屋根の癖を見て葺け、茅の癖を見て組め、人の癖を見て組め」

と私は受け取っています。

人間の感性いっぱい使って屋根や材料、先人たちの声を聴き思いを寄せ想像力を働かせる。そして、しなやかな技能で屋根を葺いていく。

人の癖とは思考、肉体、五感、感性、など人間がもたらされている、

すべてのスキルだと私は理解しています。

生き物を扱うのだから、型にはめることはできない。人間が自分のもたらせているスキルを目いっぱい発揮して仕事をする。

そんな職人ありたい

そして一緒に息を合わせて仕事をしてくれる仲間を作りたい

そう思うようになりました。

しかし、現実は、茅葺屋根の棟数は減り続けています。

現代にあわなくなっているという事実・・・・

受け入れなければならない現実だと思っています。

だからこそ、未来の夢は

現代の、私たちが住みたいと思う、

新しい、茅葺屋根の姿の提案し、

私たちの、家族や仲間がから満足し、心から一緒に住みたいと思えるような美しい街を作りたい。

これは個人でなしえる夢ではなく、

みんなの協力が必要です

世の中が真に求めているものを、提案していかなければならないと思います。

先人たちは自分たちの生活、環境に合わせて知恵を出し合い

家の形を進化させた結果、

風土に合った多種多様な茅葺屋根の姿を作り出してきました。

だから人間の知恵や意志が詰まっていて、その美しさは人を惹きつけるんだと思います

屋根から学び

それを身体で理解している

茅葺職人は、

現代の人間心と体真に求めていることを、汲み取り

理解し、協力し

新しい街を実現できる

力を持っていると

私は思っています

まず自分自身がそうでありたい。

夢の実現努力したい

仲間と共に。

これからも、どうか皆さん力を貸してください。

私たちの未来のために。

風景とともに

一年前に葺いた新築の屋根を最近見に行った人の話

ちょうど夕陽が沈む時間で、向こうの山と茅葺き屋根を眺めたのがよかった、と。

そうそう!それが茅葺き屋根の醍醐味なんです!とうれしくなった。

季節や時間やお天気によって茅葺き屋根の表情は変化します。

木の影が映るのなんて一日中見ていられるくらい。

だんだん馴染んで風景と共になってくれればいいなと思います。

 

茅葺き屋根と機織り

茅葺き屋根と機織りは似ている

縦糸横糸にカタンカタンと一本の糸が織り込まれやがて布になっていく様と

縦横に縄で組まれた下地に軒から順番に茅が葺かれていき、やがて屋根になる様

どちらも地道な作業

 

織物は布となり、縫製されて身体を包む

茅葺屋根は家を包み、人の命や大切なものをやさしく守る

どちらも作り手の感覚一つ

 

スケールは違っていても、生活に密着した、手仕事のものの共通点。

作る過程の音さえも美しい。

自然素材を使っているものはなおさら。

板招き ー茅松ー

10年前、屋根屋の仕事駆け出しのころ、そのころはまだ実家の東京から茨城の現場まで通っていた。

雨の日や、現場が空きになると今日行ってもいいですかー、とお願いしてアルバイトさせてもらっていた老舗の鰻屋さん、

 

女将さんと旦那さんが私が独立した記念にと作ってくださった板招きです。

 

立派過ぎて架けるところがなく、まだ部屋架けていますが、

そのお気持ちが嬉しく、見守ってくださっていることに感謝します。

これが堂々と架けられるように頑張ります

グシを締めるkayabuki-sound

やっとこさ、息があってきた我々。

屋根の棟、グシに蹴りを入れて締めている様子です。

もう最後の方は飛び蹴り。

この上に杉皮、トタンが載って、三枚瓦、でグシの完成。

いよいよ刈込みになります

茅葺き屋根への恋

なんで茅葺き職人をやっているのか、よく聞かれます。

聞かれるから色々答えますが、好きで好きでたまらないから、が一番しっくりくる理由です。

今回の現場、初めて茅葺きの作業を見て、その面白さに気づき、どのような仕組みになっているのか興味深々になって通ってきてくれる方がいます。

それは、傍からみているとまるで屋根に恋しているみたいで、見ていてうれしい。

私は茅葺きに恋というか、憑りつかれちゃって職人をやっているけど、職人でないひとも色々な形で関わってくれたらいいなと思います。

茅を運んでくれたり、一服の時間に一緒にお茶を飲むだけでもいい。

そういう懐の深さが茅葺き屋根の仕事のいいところだと思っています。